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この記事は『新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)(1.3版・2026年9月28日改訂)』にもとづいています(2026年10月確認)。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、採択されたら終わりではなく、補助事業の終了後3〜5年の事業計画期間で「付加価値額」「賃上げ」「事業場内最低賃金」などの基本要件を達成し続けることが求められます。結論から言うと、賃上げ要件と事業場内最低賃金の要件は、未達だと補助金の返還があります。この記事では、2026年10月時点の第1回公募要領をもとに、要件の中身・計算・基準年度・未達のときの扱いを整理します。制度の全体像は新事業進出・ものづくり補助金とは?をご覧ください。
基本要件は、付加価値額・賃上げ・事業場内最低賃金・ワークライフバランス(一般事業主行動計画)・子育て等の職場環境整備・金融機関の6つです。このうち未達で返還の対象と明記されているのは、賃上げ要件と事業場内最低賃金の要件です。前の3つは補助事業の終了後も毎年数字で確かめられ、残りの3つは主に応募から実績報告までに整えるものです。
| 要件 | 中身(要点) | いつまでに・いつ確認 | 未達のとき |
|---|---|---|---|
| 付加価値額 | 年平均成長率4.0%以上の計画を立て、最終年度に達成 | 事業計画期間の最終年度 | 賃上げ・最低賃金の返還を免除する条件の判断にも使われる |
| 賃上げ(一人当たり給与支給総額) | 年平均成長率3.5%以上の計画を立て、最終年度に達成 | 目標値は交付申請時までに従業員等へ表明 | 未達成率に応じて返還。表明が無ければ全額返還 |
| 事業場内最低賃金 | 毎年、地域別最低賃金より30円以上高い水準 | 毎年の事業化状況報告 | 下回った年ごとに、交付額を計画年数で割った額を返還 |
| 一般事業主行動計画 | 次世代法の行動計画を策定し「両立支援のひろば」に公表 | 応募申請時まで(締切時点で有効なもの) | 要件を満たさない |
| 子育て等の職場環境整備 | 3つの取組から1つを選んで実施 | 応募時に計画へ記載、実績報告で証憑 | くるみん等の認定があれば免除 |
| 金融機関 | 借入で実施する場合、金融機関の確認書 | 応募申請時 | 自己資金のみなら提出不要 |
以下、要件ごとに「何を計算するか」「何年目に何を見られるか」を順に見ていきます。
付加価値額要件は、補助事業の終了後3〜5年の事業計画期間で、付加価値額の年平均成長率4.0%以上を見込む計画を立て、最終年度にその目標値を達成することです。目標値は申請者自身が設定し、4.0%は下限の基準値です。付加価値額は営業利益・人件費・減価償却費を足したもので、伸びは基準年度の数字から数えます。
年平均成長率は複利で計算するよう公募要領に書かれています。たとえば3年計画なら、基準年度の付加価値額に1.04を3回掛けた水準(基準年度×約1.125)が最終年度の最低ラインです。単純に「4.0%×3年」とすると、目標を低く見積もってしまうので注意してください。付加価値額の考え方は「付加価値額」の正体でも解説しています。
基準年度は、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度です。申請した年度や採択された年度ではありません。たとえば決算が3月末の会社で、補助事業が年度の途中で終われば、その年度の決算が比べるもとになります。
ここで気をつけたいのは、設備の導入が終わる年度の数字が「もと」になることです。導入した年度に人件費や減価償却費が増えると基準年度の付加価値額も上がり、その後の伸びはその高い水準から数えます。計画を作る段階で、基準年度の見込みと各年度の数字を同じ表で並べておくと、無理のない目標かどうかを確かめやすくなります。
事務局10年の実務で多いのが、納品や工事の遅れで補助事業の終了日が決算期をまたぎ、基準年度が変わってしまうケースです。事務局の運用では、基準年度が変わると事業化状況報告もその翌年度から数え直しになり、目標は申請時の伸び率を下回らない形で置き直します。決算月の直前に終了日を置く計画は、納期に余裕を持たせ、終了日が基準年度の中に収まるかを発注前に確かめておくと安全です。
賃上げ要件は、基準年度の一人当たり給与支給総額をもとに、年平均成長率3.5%以上の目標値を立てて最終年度に達成することです。目標値は交付申請時までに、全ての従業員または従業員代表者に表明する必要があります。一人当たり給与支給総額は、給与支給総額を従業員数で割った値で、役員報酬や法定福利費は含みません。
3年計画なら、基準年度の一人当たり給与支給総額に1.035を3回掛けた水準(基準年度×約1.109)が最低ラインです。基準値より高い目標値は、その高さと実現の見込みに応じて審査で評価されます。ただし達成できなければ返還の計算にそのまま効いてくるので、高すぎる目標は避け、給与テーブルや採用計画と合わせて決めるのが現実的です。
実務で見落とされやすいのは、一人当たり給与支給総額が「平均」で判定される点です。全員の給与を上げていても、給与の高いベテランが退職して若手を採用すると、平均が下がることがあります。採用・退職の予定を目標値の計算に織り込み、決算のたびに見込みを確かめておくと、最終年度になってから慌てずに済みます。
もう一つ、審査では補助事業の完了を待たない「足下の賃上げ」も見られます。応募申請時の直近の事業年度から基準年度までの一人当たり給与支給総額の伸びが、物価上昇率を上回る程度に達しないと、審査で大きく不利になると公募要領に書かれています。
迷いやすいのは「誰を何人として数えるか」です。パートタイム従業員は人数をそのまま足さず、正社員の就業時間に換算して人数を出します。たとえば正社員の半分の時間で働くパートなら、0.5人として数える考え方です。昇給や減給、残業時間の増減で給与が動いた人も、算出の対象に入ります。
中途採用や退職で全月分の給与を受けていない人は、その年度に限り計算から除きます。事務局の運用では、基準年度が12か月に満たない場合も全月に支給がある人だけを数え、該当者が0人だと返還につながるとされています。非課税の通勤手当や家族従業員の給与も給与支給総額に含めるとされた例があるため、決算書の人件費をそのまま使わず、賃金台帳から数え直すのが確実です。
最終年度に一人当たり給与支給総額の目標値を達成できなかった場合は、補助金交付額に未達成率を掛けた額の返還が求められます。従業員等への目標値の表明をしていなかった場合は、交付決定の取消と全額返還です。最終年度の伸びがゼロやマイナスでも全額返還になるため、表明の記録と毎年の見込みの確認を先に仕組みにしておきます。

計算式は「返還額=補助金交付額×(1−最終年度の年平均成長率÷目標値)」です。たとえば目標値に対して実際の伸びが半分にとどまれば、交付額の半分が返還の対象になります。返還額は交付された補助金額が上限です。
表明は「したかどうか」が全額返還に直結するため、記録の残し方まで決めておきます。実務では、表明書の日付は従業員に実際に周知した日にし、目標値を変えたら日付も改めます。周知したメールや掲示の写真など、表明した証拠も保管します。交付申請の段階で周知の証拠を求められた例もあります。
注意:返還が求められない例外は、①付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として事業計画期間の過半数が営業利益赤字の場合、②天災など事業者の責めに負わない理由がある場合です。業績が良いのに賃上げだけ遅れた場合は、例外に当たりません。
賃上げ特例は、補助上限額が引き上がる代わりに、一人当たり給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上と、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上にする要件が加わる仕組みです。判断の目安は、引上げ分を使う投資額があり、その賃上げを計画期間の最後まで続けられるかです。どちらか一方でも未達なら、引上げ分は全額返還です。

まず、各申請枠の補助上限額に達しない場合は特例を適用できません。補助対象経費が通常の上限額の範囲に収まる計画なら、特例を使っても補助金は増えず、要件だけが重くなります。使う場合は、応募申請時に大幅な賃上げに取り組むための計画を電子申請システムに入力し、その内容の妥当性が審査されます。
審査では、一時的な賃上げの計画になっていないか、将来にわたり利益の増加分を人件費に充てていけるかも見られます。目標値の算出根拠も具体的に示すよう求められています。賞与の一時的な上乗せで数字を作る計画は、この観点で説明がつきにくくなります。
注意:賃上げ特例の要件が未達になると、基本要件の賃上げ要件も未達となります。引上げ分の全額返還に加え、基本要件の部分も未達成率に応じた返還が求められるため、特例を使うかどうかは返還額まで試算してから決めます。
事務局10年の実務で見ると、特例の判断を分けるのは賃上げ率そのものより人の出入りです。一人当たりの平均で判定されるため、採用や退職の予定を年ごとに置き、最低賃金の改定の時期に合わせて翌年の給与を決める段取りまで描けるかを確かめてから選ぶと、無理のない判断になります。
たとえば製造業で、設備の納品が決算月の直前になる計画の場合、終了日がどちらの事業年度に入るかで基準年度が変わり、賃上げ特例を使うかどうかの判断も変わります。こうした前提の置き方は、会社ごとの決算月や採用の予定で答えが分かれます。自社の場合を確かめたい方は、無料相談で計画の数字を一緒に見直せます。
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事業場内最低賃金の要件は、事業計画期間中の毎年、補助事業を行う事業場で最も低い賃金を、その都道府県の地域別最低賃金より30円以上高くしておくことです。事業場が複数あれば、最も低い事業場で判定します。地域別最低賃金が改定されれば基準の金額も上がるため、一度満たせば終わりではなく、毎年確かめ直す要件です。
毎年の事業化状況報告で基準を下回っていた年があると、その年ごとに「補助金交付額÷事業計画期間の年数」の返還が求められます。たとえば5年計画なら、下回った1年ごとに交付額を5で割った額です。改定のたびに一番低い時給の人を確かめる段取りを社内に作っておくと安心です。
注意:これまでのものづくり補助金・新事業進出補助金(どちらも第1回公募以降)で交付決定を受け、賃上げ要件や事業場内最低賃金の要件を達成できなかった事業者は、本補助金の審査で減点されます。要件の未達は返還だけでなく、その後の申請にも響くと考えておきましょう。
この3つは「応募の時点で整っているか」が問われる要件です。特に一般事業主行動計画は、申請締切日時点で有効なものを「両立支援のひろば」に公表しておく必要があり、掲載まで日数がかかるため最初に手をつけるものです。子育て等の取組は応募時の計画に書いて実績報告で証憑を出し、金融機関の確認書は借入を使う場合だけ出します。
応募申請時までに次世代法の一般事業主行動計画を策定し、申請締切日時点で有効なものを厚生労働省の「両立支援のひろば」に公表しておく必要があります。掲載には1〜2週間程度かかり、公募要領は2週間以上の余裕をもった公表申請を求めています。公表の遅れを理由とした締切の延長は認められません。
次の3つから1つを選んで実施し、その内容を応募時の事業計画に書きます。行動計画の内容にとどまらない追加の取組であることの説明も必要で、実績報告で証憑を出します。くるみん・プラチナくるみん・トライくるみんのいずれかの認定を受けていれば、この要件は免除です。
補助事業に金融機関からの借入を使う場合は、資金提供元の金融機関から事業計画の確認を受け、「金融機関による確認書」を出します。自己資金のみなら提出は不要です。金融機関は所在地域にある必要はなく、複数から借りる場合は任意の1者の確認書で足ります。なお、確認書を出した金融機関への発注は認められません。
準備は「日数がかかるもの」から逆算します。第1回の申請受付は9月30日から、締切は2026年10月30日18:00です。一般事業主行動計画の公表申請を締切の2週間以上前に済ませ、並行して直近の決算と賃金台帳から現状の数字を出し、基準年度と各年度の目標値を置いていく順番なら、締切の直前に慌てずに済みます。

事務局10年の実務では、金融機関の確認書は本文の仕上げを待たず、仮の数値計画で先に依頼しておくと締切前に詰まりにくくなります。また事務局の運用では、賃上げ表明書に書く数字は、申請で入力した計画の値とそろえるよう求められます。表明書と計画の数字が食い違うと、交付申請で直しが入ります。
事業化状況報告は、補助事業を完了した年度の終了後を初回として、5年間で計6回、事業化の状況と要件の達成状況を報告するものです。要件の確認のため決算書・賃金台帳等の提出が求められるので、毎年の決算がそのまま報告の材料になります。報告をしない場合や虚偽の数値を報告した場合は、交付決定の取消と補助金の返還の対象です。
報告の数字は決算で確定するため、決算が終わってからでは打てる手が限られます。事務局10年の実務では、賃金台帳を四半期から半年ごとに確かめ、期中に一人当たり給与支給総額の見込みを出しておくやり方が効きます。足りなさそうなら期末までに昇給や賞与での調整を検討し、決算が済んだ年は決算書で実績を確かめます。
A. 公募要領の基本要件で「返還要件」が書かれているのは、賃上げ要件と事業場内最低賃金の要件です。付加価値額は、賃上げなどの返還を免除する条件(付加価値額が増加していない、かつ営業利益赤字)の判断に使われます。ただし事業化状況報告で要件の未達が認められると返還を求めるという定めもあるため、付加価値額も目標どおり達成する前提で計画を立ててください。
A. いいえ。基準年度は、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度です。賃上げ要件・付加価値額要件とも、この年度の数字をもとに伸びを計算します。
A. 入りません。給与支給総額に含むのは従業員の給料・賃金・賞与などで、役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金は除きます。
A. 正社員の就業時間に換算して人数を出します。人数をそのまま足すと、一人当たり給与支給総額が実際より低く出ます。その事業年度に全月分の給与を受けていない人は、その年度に限り計算から除きます。
A. プラチナくるみん・くるみん・トライくるみんのいずれかの認定を受けていれば、子育て等の職場環境整備の要件は免除されます。一般事業主行動計画の公表(ワークライフバランス要件)は別の要件なので、こちらは満たす必要があります。
新事業進出・ものづくり補助金の基本要件は、採択の条件であると同時に、補助事業の終了後3〜5年にわたって守る約束です。賃上げ要件は未達成率に応じた返還、事業場内最低賃金は下回った年ごとの返還があり、どちらも基準年度(補助事業の終了時点を含む事業年度)からの伸びや毎年の水準で判定されます。賃上げ特例は、補助上限額に届く投資があり、高い賃上げを続けられる場合に絞って検討します。
まずは公募要領の「1-3. 補助対象事業の要件」(p.11〜15)を読み、直近の決算と賃金台帳で現状の数字を出してください。そのうえで一般事業主行動計画の公表申請を先に済ませ、基準年度と各年度の目標値を事業計画に落とし、採択後は決算のたびに目標との差を確かめる順番が確実です。計画の組み立て方は補助金の事業計画書の書き方も参考にしてください。
補助金サポートセンター(株式会社エムアイエス)は、補助金の事務局10年の経験を持つ中小企業診断士のチームです。基準年度の確認、付加価値額・賃上げの目標値の置き方、要件の準備の段取りなど、計画づくりを支援します。オンラインで全国対応しています。
※本記事は2026年10月時点で公表されている公募要領・公式サイトの情報をもとに作成しています。要件・日程・補助額は変わることがあります。申請の前に、必ず最新の公募要領をご確認ください。
執筆:補助金サポートセンター編集部
監修:松村 昌典(2026年10月9日 監修)
株式会社エムアイエス 代表/中小企業診断士・応用情報技術者。補助金の申請支援に約15年携わり、うち10年は ものづくり補助金の事務局の運営を経験。支援実績2,000件超。制度の要件と審査の見方をふまえて、中小企業の事業計画づくりを支援しています。
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 山口県立山口高校、立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員